2004.07.16

自動車販売店から発生する不要バンパーの 全量をリサイクル事例 ――リサイクル材の用途開発に取り組むK産業株式会社――

自動車販売店から発生する不要バンパーの 全量をリサイクル事例 ――リサイクル材の用途開発に取り組むK産業株式会社――

 従来自動車リサイクルは金属やタイヤ・バッテリーの再資源化が中心でしたが、最近ではバンパーなどのプラスチック素材のリサイクルも進んでいます。
 今回は、事故などにより損傷したバンパーを自動車メーカー系列の販売店(ディーラー)が交換することによって発生する不要バンパーを回収、それを優れたリサイクル技術を保有する企業が引き取ってリサイクルしている事例を紹介します。
 不要バンパーを全国規模で回収しているのは、トヨタ自動車(株)系列の販売店、リサイクルするのはトヨタ自動車と部品製造で協力関係にあるK産業株式会社(愛知県)です。

不要バンパーを多様なリサイクル部品の原料に加工

自動車のバンパーは、車体本体を保護することと安全性確保のための部品ですが、車のデザインとも深く関わっているために、少々のキズや事故に遭遇したことで凹みなどができますと目立ちます。このために、交換するケースが多いのは皆さんもご承知のことでしょう。

 

K産業(株)によりますと、自動車メーカー系列の販売店が不要になったバンパーを回収、K産業(株)がその全量のリサイクル委託を受け、実際にリサイクルを開始したのは96年10月からで、回収は全国規模だったとのことです。その状況の推移を見ますと、

廃バンパー回収・リサイクル実績の推移 単位:万本

リサイクル実績の推移

と、年ごとに増加しているのが分かります。
96年以来、回収した不要バンパーの全量をK産業(株)が引き取り、リサイクルを行っているわけですが、03年には全販売店の発生量の約70%に当たる約77.1万本を処理したとのことです。

粉砕工程風景

異物チェック→粉砕工程

97年以降は、トヨタ自動車が開発した画期的な新技術も導入、TSOP(注参照)製バンパーを再生バンパー材料にリサイクルしていました。分解が困難とされるバンパー塗膜を、アミン系分解剤と高温・高圧下で分解を促進させる特殊スクリューを採用した2軸反応押出機によって連続して再生処理するシステムで、関係業界から注目を集めました。

(注)TSOP=トヨタスーパーオレフィンポリマーの略で、従来の複合PP(ポリプロピレン)に比べてリサイクル性を向上させた熱可塑性樹脂。トヨタ自動車が91年に開発、実用化しました。新型車やフルモデルチェンジ車の内外装部品に採用されています。

破砕品

バンパー以外へのリサイクルの工程は、バンパーを粉砕し、そこにタルクなどの性能を向上させるための充填材を入れてペレットを作ります。そのペレットを原料に各種プラスチック製自動車部品を作ります。

※タルク:プラスチック製品の剛性を高めるための充填材。蝋石(石筆や玩具などにも使われている)を微粉砕したもの

エンジンアンダーカバー他

エンジンアンダーカバー他

フロアボード

フロアボード

バンパー以外の用途は、エンジンアンダーカバー(エンジンの下部を保護するカバー)、フロアカバー、タンクプロテクター(燃料タンク保護部材)、工具収納トレイ、フロアボードなどへの再生材料(ペレット状)として自社で加工原料にするほか、トヨタ系およびトヨタと協力関係にある成型メーカーに供給している、などです。

リサイクル材料から生まれたプラモデル

また、用途開発の一つとして、かつて自動車ファンを魅了したトヨタ2000GT、現在のプリウスなどのプラモデル(1/40から1/45で、バネを動力にして走る)をリサイクル材料によって製作、納入先のトヨタ自動車では訪れる小学生の見学者に記念品として配布、なかなかの人気だそうです。

K産業(株)には、「モノの命を全うしよう」という理念があり、これが同社におけるリサイクル促進の原点で、リサイクル原料を最も適した部材、部品にリサイクルすることこそ、持続性のあるリサイクルだとの信念がそれを支えています。

トヨタの販売店から全量を引き取る

不要バンパー(キズつきや事故による交換)の回収システムはシンプルです。トヨタ自動車系の販売店がユーザーの要望に応じて交換したバンパーを回収(TSOPなどのポリプロピレンだけを回収。ウレタン系は除外)、各都道府県にあるトヨタ部品共販店に集約します。

中部地区(除く、三重県)はバンパーの原形のまま共販店からK産業(株)が引き取っていますが、それ以外の地域では共販店が回収したバンパーを、トヨタ自動車と提携している粉砕工場(北海道、東北、関東、関西、中国、四国にある7工場)に引き取ってもらい、粉砕・減容(搬送費の低減)したあとK産業(株)に搬入されるルートが確立しており、その効率的な運用とネットワークは再生コストにも反映されています。

搬入バンパー

搬入バンパー

K産業(株)によりますと、不要バンパーの回収・リサイクル率向上を目指すトヨタ自動車では、現在の販売店回収率70%を100%へ2010年までに達成する目標を掲げているそうです。

リサイクルは技術力に基づいた相手先企業との信頼関係で発展する

トヨタ系販売店は不要バンパーを無償で回収しますが、K産業(株)は共販店から有価で引き取り、再生材料に加工してトヨタの系列企業や協力企業に有価で納入するというシステムになっています。

 

K産業(株)は、自社のリサイクル技術によって、増加するであろうTSOP製バンパーを新しい再生部品、新型車に対応したリサイクル部品への用途開発の可能性は、かなり大きいのではないかと見ていますが、これはあくまで納入先の自動車メーカーとその協力企業との技術力に基づいた信頼関係の深度が前提になり、それが自社の発展に大きく寄与するであろうと考えています。

 

しかし、リサイクルには市況環境の動きが反映されることも事実です。
その一つに、仮にリサイクル材のほうがコスト高になってしまうような状況になった場合、納入先企業においてコスト管理上ギャップが生じてしまう懸念があります。別の面では、不要バンパーの引き取り量とリサイクル量のバランスを常に考慮しなければなりません。これが崩れると、リサイクルの推進に影響を与える要因になりかねないからです。K産業(株)にとって、解決しなければならない課題は多いようです。

 

現在、国内では約7,000万台の自動車が使用されており、これらの車はいずれ新車に代わって使用済みになります。このサイクルは将来にわたって続くわけで、自動車メーカーはこの現実を視野に入れ、2005年1月の自動車リサイクル法本格施行を前に、リサイクル技術やシステムの開発、リサイクルネットワークの構築、リサイクル性に優れた樹脂類の開発、再生材料の用途開発など、さまざまな課題に取り組んでいるのが現状です。K産業(株)にとっても同様で、用途開発が最も重要と位置づけています。

それだけに、複眼的視点に立って、リサイクルそのものを社会的システムとして定着させることは、環境保持の上で次世代への遺産にもなるわけですから、重要な取り組みと言って過言ではありません。