プラ処理協ニュース
NO.277-5
2004.04.09


拡大生産者責任と日本の廃棄物政策(講演要旨)
慶應義塾大学経済学部教授 山口 光恒



 OECD(経済協力開発機構)が2001年3月にまとめた「ガイダンスマニュアル」は、拡大生産者責任(EPR)という考え方に基づき、廃棄物の減量化と資源の有効利用をめざす資源・廃棄物政策である。OECDは3つの期間に分け、フェーズ1で加盟国のEPR政策の実態を調査、フェーズ2で当時の数少ない実例としてドイツとオランダの廃棄物政策を検討、その後4回のワークショップと各国政府の検討を経て、マニュアルを最終的に完成した。マニュアルは日本の環境政策にも少なからぬ影響を与えているが、その完成までの7年間の議論に日本は積極的に参加したとは言えず、マニュアルの目的や内容、性格が十分理解されていない。また、マニュアルには問題点もある。議論に参加した者として内容を解説し、問題点を指摘したい。

ガイダンスマニュアルとは 
 まず、マニュアルの目的だが、「EPRの論点と利点、及びEPRプログラムの効果的導入に際する必要事項に関する各国政府への情報提供」であり、「特定の方向付けを与えるものではなく、他の政策・措置に対して、EPRの制度設計上の優位性を正当化するものでもない」と書かれている。各政府がもしEPRというのはなかなか面白いじゃないかということになったら、これをOne of themとして参考にしてくださいという位置づけだ。また、各国の経済・社会・文化的背景を勘案するようにとも書いてある。しかし、不幸なことに、日本では、ドイツの包装廃棄物政令のように法律により処理責任を100%生産者に転嫁する方式がより望ましいという論調で書かれたフェーズ2報告の時点から、ようやくホームページで全文が入手できるようになったという経緯もあり、中間段階の報告だけを見て、EPRの内容を誤解している人が多い。

拡大生産者責任とは 
 拡大生産者責任(EPR=Extended Producer Responsibility)とは何か。マニュアルでは「生産物に対する生産者の(物理的及び/または金銭的)責任を廃棄後まで拡大する」環境政策の手法であると定義されている。特徴としては、1.責任を全面的、部分的に自治体から製品のライフサイクルの上流にシフトすること、2.生産者に環境に配慮した製品設計を行うインセンティブを与えること。1.からわかるように、これは日本でいう一般廃棄物を対象としたもので、容リ法のように自治体の負担が大きいものは関連が深い。
 では、ここでいう「生産者」とは誰か。マニュアルによれば、生産者とは、製品の材料選択や設計の制御可能性(controlability)を持つ人、つまり、ブランドオーナー、製造業者、容器利用事業者を指す。私はかねてから、拡大生産者責任という日本語訳は生産者の責任を拡大する意味になるので正確ではないと指摘しているが、これだけ広まると言っても無駄という気がしている。しかし、内容からいうと、ESRP(Extended and shared responsibility for products)、「生産物に対する拡大された、さらにシェアされた責任」の方が望ましい。生産物に対し制御可能性を持っている生産者の責任を拡大するということだ。さらに、生産者のみが責任を負うのではなくて、小売業者も流通業者も、消費者もすべてがシェアするということも、このマニュアルには書いてある。
 なぜ制御可能性を持つ人が責任を負うかというと、製品をリサイクルする必要が出てきた場合に、一般的にマニュファクチャラーに責任を負わせるのが、社会全体として最も安上がりで効率的だということ。ここでいう責任はresponsibilityであって、PL法に出てくる賠償責任(Product Liabilityで訴訟の対象になる)とは、まったく意味が違う。
 では具体的に、どのような製品は、どのような手法で、誰がどう責任を分担するのか。それは製品の性質に応じて、手法も法律、規制から自主協定まで多様であるべきだというのがマニュアルの考え方。例えば容器包装と自動車では、片や買ってその日に捨てるが片や10年以上経ってから捨てると、まったく性質が違う。ところが日本の自動車リサイクル法は、自動車メーカーの責任を拡大するという発想が、一般廃棄物以外に及んできた例。ほかにマニュアルには、最終処分量の多い製品、処分場制約が強い製品にはEPRが適していることや、既販売製品をリサイクルする際はメーカーの負担が大きいので後払いでいいのではないかといった費用徴収期間についても言及している。

マニュアルの問題点 
 一番の問題点としてEPRとPPPが混同されているということが挙げられる。OECDでPPP(Polluter-Pays Principle)原則が出来たのは1972年で、日本では企業に対する公害訴訟がピークの頃だったために、汚染者負担の原則と訳された。しかし、それは法律家の見方で、経済学的視点で読むと、PPP原則とは企業が汚染防止のために設備投資などをする場合の「汚染者支払いの原則」のこと。企業は後に費用を製品価格に上乗せするから、本当は一時立替払いに近い意味。誰が最終的に支払うのかは問題ではなく、汚染者がまず最初にお金を払うということでしかない。また、PPP原則は国際貿易上も必要だった。公害問題が出てきて2つの国が規制強化をやる場合に、政府が国際競争力を落とさないために企業に補助を出すと、国際貿易をゆがめることになるからpolluterがpayするという意味だった。
 だが、EPRについての議論の初期の段階では、PPP原則によって、EPRの下で生産者が責任を負うということが書かれていた。では簡単な例で、誰かが自動車に10年乗って捨てるとメーカーは汚染者になるのか? 実際に公害を撒き散らした人は消費者で、しかも乗っている10年は自動車の便益を享受した。処分場がなくなるのは問題だが、処分場は石油などの資源と同じで、経済原則によって価格が決まってくるから、処分場不足イコール環境破壊でもない。仮に汚染がそこで起こったとしても、自動車メーカーが汚染者と言えるのか。EPRで自動車の生産者が責任を負うとすれば、汚染者だから負うのではなくて、メーカーこそ設計変更によって環境汚染を減らすのに最適な、制御可能性を有しているから責任を負うということだ。

日本の廃棄物政策の問題点 
 EPRとの関わりで見ると、日本の廃棄物政策にも問題が見えてくる。ひとつは支払いの問題。誰がいつ支払うか。リサイクル費用を生産者が負担し価格に転嫁したとき、売れる商品と売れない商品があるため、売れなくなる商品の場合は生産者が全額負担しなければならなくなる。価格が1円上がるとどのくらい需要が減るかという割合に応じて、生産者と消費者が負担するべきではないか。その場合は先払いでも後払いでも同じ結果になる。日本のリサイクル法で一番問題になるのは、後払いだと消費者負担になるという考えが根強いこと。メーカーは後払いだと取りっぱぐれるから先払いがよいという。しかし、これは逆で、私が消費者なら絶対後払いを主張する。100個作って回収率が100%なら先払いでもいいが、消費者が100個分のリサイクル費用を払って回収率50%では消費者が損をすることになる。後払いについては、OECDでも私は主張してきたが、国内での議論も期待したい。目標としてリサイクル率を重視するのも間違いで、回収率を的確につかむこと、今後は輸出も視野に入れるべきだ。
 税金の問題もある。容リ法でも自治体の埋立・焼却コストなどは減ったはずだし、家電では完全に減った。するとその部分は住民税を返すべきだが、自治体はコストがかかって大変だといい続けている。東京都の場合は一人分で400円減ったと公表し、それを都民全員に返すのは大変だから別の用途に使うとしているが、多くの自治体ではコストが公開されていない。
 国レベルでも、政策策定のときに費用便益の分析をしないため、評価もできない。リサイクル法を作るときは環境効果と経済効率のコストマネジメントが必要だが、そういう発想もシステムもなしにやっていたのでは、EPRの目的達成も難しいといわざるを得ない。リデュース、リユース、リサイクルという優先順位もコストマネジメントをきちんとやると、製品の性質などによって違ってくるのではないか。